「地政学リスクが高まっている」というニュースで株を売るべきか迷ったことはないでしょうか。この地政学リスクを数値化したGPR指数の仕組みと、過去の実例から見える限界を整理します。米連邦準備制度理事会(FRB)のエコノミストが1985年から算出している指数です。
結論を先に書きます。GPR指数は「地政学的な緊張がどれだけ新聞で報じられているか」を測る指数で、水準の高さと株価下落の大きさは必ずしも比例しません。過去3回の地政学ショックで日経平均の反応を実データで比較すると、同じ「地政学リスク」でも結果は大きく異なりました。
GPR指数とは何か|新聞記事の頻度で測る珍しい指数
GPR指数(Geopolitical Risk Index)は、FRBエコノミストのダリオ・カルダラ氏とマテオ・イアコビエロ氏が開発した指数です。一般的な経済指標のように統計局が集計するのではなく、主要10紙(ウォール・ストリート・ジャーナル、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト等)の記事のうち、地政学的緊張を扱った記事の割合を機械的にカウントして作られています。
対象となるのは「戦争の脅威」「和平の脅威」「軍備増強」「核の脅威」「テロの脅威」「開戦」「戦争の激化」「テロの実行」という8つのカテゴリーです。このうち前半5つを合計した「脅威(Threats)」指数と、後半3つを合計した「実行(Acts)」指数に分けて公表される点が特徴で、「緊張が高まっている段階」なのか「実際に軍事行動が起きている段階」なのかを区別できるようになっています。指数は世界大戦・朝鮮戦争開戦・キューバ危機・同時多発テロの直後に急上昇したことが知られています。
指数が高い=株価が下がる、ではない|過去3回の実例で検証
ここが本記事の核心です。GPR指数(あるいは地政学リスクそのもの)が話題になった局面で、日経平均が実際にどう動いたかを比較します。

| ショック | 1営業日後 | 10営業日後 | 20営業日後 |
|---|---|---|---|
| ロシアのウクライナ侵攻(2022年2月) | +1.9% | -1.1% | +8.4% |
| イスラエル・ハマス衝突(2023年10月) | +2.4% | 0.0% | +4.1% |
| イラン紛争激化(2026年2月) | -1.3% | -8.5% | -11.8% |
ロシアのウクライナ侵攻とイスラエル・ハマス衝突では、日経平均は初動でむしろ上昇し、20営業日後もプラス圏でした。一方2026年のイラン紛争激化では、20営業日後に約12%の下落となっています。同じ「戦争」というカテゴリーでも、日本株への波及度合いはこれだけ違いました。この違いを説明する一つの視点が、GPR指数の「脅威」と「実行」の区別です。前2つは日本から地理的・経済的距離があり、原油供給への直接的な影響が限定的だったのに対し、イラン紛争はホルムズ海峡という原油輸送の要衝に関わり、日本のエネルギー調達への実害が意識された点が異なります。
GPR指数の実務的な使い方
GPR指数そのものはpolicyuncertainty.comで公開されており、誰でも過去データを確認できます。個人投資家としての実務的な使い方は次の3点だと考えられます。
- 水準そのものより「Threats」と「Acts」のどちらが上がっているかを見る。緊張の段階(Threats)なら市場は織り込みで反応しにくく、実際の軍事行動(Acts)に移行すると反応が強まりやすい。
- 自分の保有銘柄への実害経路があるかを確認する。エネルギー・海運関連が多いか、当該地域への売上依存度が高いかで、影響の大きさは変わる。
- 指数の急上昇だけを理由に売買しない。上の表の通り、地政学ショックの多くは市場が短期間で織り込み、日本株への影響は限定的だったケースが多い。
運営者YK視点|イラン紛争激化局面で私はどうしたか
投資歴20年・運用資産6,000万円規模の私自身の対応を書きます。2026年2月末からのイラン紛争激化で、私の実際の株式ポートフォリオ(17銘柄・取得元本285万円)も評価額が下落しました。

紛争激化直前の2月27日時点で評価額は679.6万円でしたが、下落の底となった3月13日には618.5万円まで下げ、この間の下落率は約9%でした。当時、日経平均が20営業日で12%近く下落するというニュースを見ながら、私は保有株を一切売却しませんでした。理由は本サイトで一貫して書いている通り、長期保有・売買しないという方針そのままです。結果として現在(7月31日時点)の評価額は727.6万円まで回復し、下落局面前の水準を上回っています。
地政学リスクが実際に相場を動かすことはありますが、その都度売買していたら、今回のような数か月での回復局面を取りこぼしていたことになります。GPR指数は「今、何が起きているかを定量的に把握する」ためのツールであり、「だから売る・買う」を決める信号ではないというのが、この局面を実際に経験した私の受け止め方です。
まとめ
GPR指数は地政学的緊張を定量化した珍しい指数で、「Threats(脅威)」と「Acts(実行)」を区別できる点に価値があります。ただし過去の実例が示す通り、指数の話題性の高さと日本株への実害は必ずしも比例しません。指数の動きを見る際は、水準そのものより、自分の保有銘柄への実害経路があるかどうかを確認することをおすすめします。
地政学リスクと市場の関係をさらに知りたい方は、イラン情勢緩和とセクター影響の記事、ホルムズ海峡情勢の記事もあわせてご覧ください。
本記事は公開情報および運営者自身の保有データに基づく個人的な整理です。地政学リスクの評価・投資判断はご自身の責任で行ってください。将来の運用成果を保証するものではありません。詳細は免責事項をご確認ください。


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